Deaiインタビュー。「この曲を伝えていくことが、私の使命かもしれないー。」 国境を越えた“Deai”から生まれた『楽園』のメッセージ

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Deaiインタビュー 「 この曲を伝えていくことが、私の使命かもしれないー。 」
国境を越えた“Deai”から生まれた『楽園』のメッセージ

Deai
Vo 菅原奈月 ・ Gt ヴィタリースンツェフ
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インタビューアー・ライター:
長島志歩

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覚悟のレベルが1段階変わる。想像を越えて広がったプロジェクトの可能性。



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ーー今回の楽曲『楽園』は1年半前から準備していたと聞きました。どのような経緯で始まったプロジェクトなのでしょうか?

ヴィタリー:オリジナルの『楽園』は、私が大好きな「アリヤ」の楽曲です。ハードなロックと美しいバラードで有名なロシアのバンドで、その中でも最も素晴らしい曲が『楽園』。美しい始まりから、徐々にテンションを高めていって、最後には爆発するようなドラマチックな展開が好きで、この曲をカバーするために、詞と曲の権利を持つバンドのメンバーに直接アプローチしたんです。

奈月:ロシアには日本のJASRACのように包括管理する団体がないので、カバーしたい時は直接作詞家や作曲家に連絡をするんですが、有難いことにどちらからも快諾して頂けました。

ヴィタリー:承諾を貰えたので、少し日本語に訳して、アコースティックギターにのせて奈月が歌う声を録音したデモテープを送ったら、なんとギタリストのセルゲイ・テレンチエフさん本人から「良ければこれを使って練習してね!」とライブ音源が送られてきて。

奈月:巨匠のような方々なのに、すごく気軽でフランクで、いい距離感の近さなんです。直接連絡をとれることにもびっくりしましたが、音源まで頂けることになり、覚悟のレベルが一段階変わった感覚がありました。これは私たちだけの力でどうこうするのではなく、もっともっと広げていきたいなと。

それで、デモビデオをつくるために、ダンサー・コスプレイヤーの浅葱舞さんにご連絡したんです。曲に合わせて踊ってほしいと依頼したところ、突然のご連絡にも関わらずOKして下さって。友人にも手伝ってもらい、ビデオ用の撮影を行うことができました。

ヴィタリー:その映像をセルゲイさんに送ったら、なおさらやる気に火がついたようで、新たに音源を作って頂けることになったんです。

ーー予想を上回る展開ですね!そもそもデモビデオを作った目的は何だったのでしょう?

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奈月:デモビデオを作ったのは、ご本人にも映像で出演して頂きたかったから。闇雲に「出演してください!」と言うだけでは伝わらないと思い、このような方法を取りました。ビデオは、私のソロや素晴らしい景色の映像、そして舞さんのダンスなどの映像を組み合わせて作っています。

それがセルゲイさんのインスピレーションになり、私に合わせてキーやアレンジ変え、オペラロック調から女性らしさを感じるハープを用いた楽曲へとアレンジが加わることになるなんて。さらに、わざわざ80年代の日本のギターを買ってソロ部分の録音までしてくれたんです!ここまでの展開はさすがに想像していなかったですね。

ヴィタリー:ロシアの文化といえばバレエやピアノなどクラシックなものがメジャーで、ポップスやロックはあまり日本に浸透していません。だからきっと彼らには、日本語バージョンを通じて、日本の方々に自分たちの音楽を届けたいという想いがあるはず。アレンジが加わったことで、最終的にはオリジナルの5倍強くなった感覚があり、とてもワクワクしています。

奈月:私はあまりロックというジャンルに馴染みがなかったんですが、『楽園』はもともとメロディに力があって、歌詞の意味はわからなくてもすっと入ってくる曲だと感じていました。今回私が歌うために、力強さはそのままに優しいアレンジへと変えてくださり、そうした想いも背負ってやっていかなきゃと覚悟が強まりましたね。いよいよ引き下がれないぞ、と。

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国を越えたアーティストたちの共創。さまざまな想いが集った『 楽園 』という場所。



ーー今回、歌詞の翻訳は『鬼滅の刃』などで活躍されている声優の中川奈美さんが担当されていますね。

ヴィタリー:オリジナルは、マルガリータ・プーシキナというロシアロックで有名な詩人の方が作詞されています。これまでのカバー曲はある意味単純にロシア語から日本語へ訳してきましたが、『楽園』だけは自分たちでは翻訳できないと感じ、深い日本語のと音楽の知識があり、美しい詩をつくることのできる人を求めて中川さんにご相談しました。

翻訳作業の中では、オリジナルの歌詞の意味や文化的な背景などを数時間ディスカッションしました。さすが中川さんは著名な歌手でもあり、丁寧にメロディとリズムに合わせて訳詩を作って頂き、感動しています。

奈月:ロシアではキリスト教の考えが文化として身近にあり、この楽曲にもニュアンスとして含まれていますが、ロシアほどキリスト教が文化レベルで浸透していない日本では、そのまま翻訳しても伝わらないだろうと中川さんがおっしゃって。それで、日本の方にも寄り添った歌詞、特にコロナ禍での疲れを感じている方々に寄り添える歌詞として訳詞を作って頂きました。

ヴィタリー:日本人の心にどう伝えるか、中川さんと一緒に考えました。文化が違っても、人間皆共通点は多いはず。実際、中川さんの訳詞は本当に素晴らしくて、「これだ!」と思いそのまま使わせて頂いています。

奈月:これまでも中川さんにはずっとご縁を繋いでもらってばかりで、まだまだ恩は返しきれません。それでも、私たちがきっかけとなって、というのはおこがましいですが、日本とロシアのメジャーなアーティストが作品を通じてコラボレーションする機会をつくることができ、それを世界中の人たちに知ってもらえるのはすごく嬉しいですね。

ーー中川さん以外にも、さまざまな方々がこのプロジェクトに参加されているそうですね。どのような方々とコラボレーションされたのでしょう。

奈月:中川さんのご紹介で、『鬼滅の刃』のコーラス等にも参加されている声優の寺本勲さんに、歌詞の読み解き方や世界観の捉え方・広げ方などのアドバイスを頂きました。

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さらに、これまた中川さんのご紹介でコサエル・クリエイティブスタジオで収録させて頂いたんです。スタジオ代表の浦本和宏さんは作曲やアレンジも手掛けられていて、歌詞の意味や曲への思いをお話ししたら、「ただ録るだけじゃなくて、皆で一緒に作っていきましょう!」とボーカルディレクションまでしてくださって。出しづらい高音なども引き出すように導いてくださり、おかげでまったく別物になりました。

ヴィタリー:ロックの経験の少ない奈月が、長年に渡ってロック歌手をやってきたかのようだったよね(笑)。

奈月:その他に、アルパ(スペイン語でハープのこと)奏者の歌田みゆきさんにもご協力頂いています。セルゲイさんのアレンジでハープの要素が増えた際、「奈月がハープを演奏しているシーンを撮って、ビデオにもいれてみたら?」とアドバイスを頂いて、ぴんときたのが歌田さんだったんです。1回しかお会いしたことはなかったのですが、弾き方のアドバイスと楽器の貸し出しをお願いしたらすぐに快諾してくださって!歌田さんのご協力のおかげで、アルパを演奏するシーンを追加で撮影することができました。

ヴィタリー:本当に、人生のエンドクレジットに載せたい人が増えていくよね。

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奈月:スペシャルサンクス欄がとても多いんです(笑)。しかも、そうして数えきれないほどの人に協力してもらって追加撮影した映像をセルゲイさんに送ったら、「じゃあロシアチームも撮影するね!」と言ってもらえて。セルゲイさんの現バンド「アルテリア」のメンバー、アレクサンダー・ゴンチャロフさん(ベース)とイーゴリ・チェレフコさん(ドラム)のお二人にもご参加いただきました。

ーー映像ができあがる背景にはそんな過程があったんですね!皆さんをここまで惹きつけたものは、一体何だったのでしょう?

奈月:浦本さんは、「いちアーティストとして、自分も今の世の中に対して何かできないだろうかともやもやしていた」とおっしゃっていました。何かしたいけど、手段がわからず心が苦しい…という思いがあったそうで。

私自身、レコーディングの日には歌詞を読んでいるだけで泣けてきてしまって。戦争のことや政治のことを簡単にどうこう言いたくないけど、一切触れずにいることもできないし、なんて言葉にしたらいいのかなって。

幸い、ロシアにいる友人たちも今は直接的には傷ついてはいないし、ウクライナにいて私たちの活動を応援してくれている方々も沢山いるけれど、何がどうなるかあまりにも先が見えなくて。憂いているだけでは何も変わらないから、発信を止めるつもりはないけれど、平和そうな歌を歌うのも何か違う。正解がわからないし、正解はないのかもしれない。戦争反対と言うのはたやすいけれど、どの角度でものを見るかによって変わる部分もいろいろある。

ただし、これだけは言えるのは、「誰にも傷ついてほしくない」ということです。偽善に聞こえるかもしれない、私の発信を誰が聞いてるかもわからない、どれほど影響力があるかもわからない。それでも、海を越えてたくさんの人が力を貸してくれたこの『楽園』という曲を、人に伝えていくのは私の使命だと感じます。こんなふうに感じたのは初めてかもしれません。

ヴィタリー:私たちのYouTubeのオーディエンスのTOP3は、ロシア、日本、ウクライナなんです。戦争がいつか終わるものであるなら、どちらかだけをサポートするのではなく、その後の心の支えや、お互いを分かり合うことを支え、民族の深い傷に薬をぬってあげるようなことが私たちの役割なのではないかと思います。

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今出さずしてどうする。今こそ必要な『 楽園 』の普遍的メッセージ。



ーー『楽園』の発表にあたっては、恐れやプレッシャーなどもあったのではないかと思います。このタイミングでの発表には、どんな理由があるのでしょうか?

奈月:もともと何か発したいとは思っていたんです。でもそれが言葉なのか、音楽なのか、見えていなくて。さらに、実際の情勢や正しい情報がどれかもわからない中で、たやすく「心配しています」というのも違うなと思っていて。

ヴィタリー:あとで後悔するような発言をするのではなく、変わらない強いメッセージを発信できたらいいなと思っていました。そうした時に、この『楽園』には、まさに私たちが思っている通りのメッセージが含まれていることに気づいたんです。

奈月:発することで誰かを傷つけるような言葉だけは避けたいし、じゃあ突然傷ついた人たちのためにオリジナルソングをつくる、というのも違う気がして。そんなときに、『楽園』の持つ国を越えたメッセージ性が今こそ必要だと感じたんです。

実際、『楽園』のオリジナルはロシアの方にもウクライナの方にも愛されている曲で、そこに国籍は関係ありません。島国にいる私たちにはイメージしづらいかもしれませんが、「国境」は私たちが思うよりも形式的なものでしかありません。でも、メディアではわかりやすく国の名前だけが一人歩きしてしてしまいがちで、それによって傷ついている人もいる。

そんな今の世界に対して、『楽園』の訳詞は「人と人が手を取り合うこと」「すべての人に安らぎが訪れますように」ということを表現したものになっています。もともとはコロナ禍の世界に向けて作ったものですが、さらに悲しい出来事が重なってしまい、逆に「今出さずしてどうする」という気持ちです。

Deaiが望む、この先の出会い。



ーー前回インタビュー時点からのおふたりの変化として、ユニット名の改名がありますね。

奈月:新しいユニット名「Deai」は、2021年9月に正式にお披露目しました。

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ヴィタリー:2021年7月に加藤登紀子さんのコンサートを拝見した際、彼女が言った「国境というのは、人を隔てるものではなく、人が出会うためのもの」という言葉にはっとしたんです。私たちのこの先の人生は、そのためにあるんじゃないかと。

奈月:いろいろな人とコラボレーションをして、そこから広がっていったらいいなという願をこめて「Deai」という名前にしました。

ヴィタリー:「Deai」という言葉は曲名にはたくさん入っているけど、アーティスト名にはまだ使われていなくて、私たちのために残っていたのかなと。

奈月:数年間、本当にいろいろな名前をいろいろな言語で検討して、エルフ語(ファンタジー上の架空の言語)にまで手を出しました(笑)。

ヴィタリー:日本とロシア、どちらかの国の言語に寄ってしまって、どちらかの国の人にとって覚えにくい名前は避けたかったんです。「Deai」は母音的にもシンプルでいいですよね。

ーー新しいユニット名には、すぐに馴染めましたか?

奈月:実は決めた当時はまだふわふわしていて。でも、少しづつ自己紹介を重ねていったり、それこそ加賀見さん(TintRoom担当)に「日本という国にとらわれず、いろいろな人たちと出会っていくべきだ」と言って頂いたりして、やっと最近自分たちの中にも「Deai」が浸透してきました。自分たちのことをそこまでのスケールで考えたことがなかったけれど、今こそ「Deai」の意味があるんじゃないかと、最近になってこの言葉に対する解像度があがり、クリアになってきました。

ヴィタリー:いろいろな国の人たちともっともっと関わって、かけあわせて、全世界のオーディエンスに向けて素敵な作品を作っていきたい。私たちが出会いのきっかけになりたいですね。

ーーありがとうございます。最後に、『楽園』を発表してこの先に望むこと、おふたりの今後について教えてください。

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奈月:私たちの出身地は、今もこれからも日本とロシアであることは変わりありません。ただ、そこだけにこだわらずに広げていきたいと思っています。言語は違っても、人が感じとるフィーリングは元をたどれば同じはず。音楽や写真などが国や言語を超えて受け止められているのはつまり、人として共通するものがあるということ。そこを大切にしていきたいですね。

残念ながら、これからも傷つく人が増えてしまう可能性はとても高いと思います。であれば、ちょっとでも気持ちが軽くなるお手伝いができることは何かを探していきたいです。国籍にこだわらずに縁を広げていきたいし、そこから何かが生まれてムーブメントになっていったらいいですね。『楽園』を発表して、誰かが何かを感じてくれて、そこからまた新しいものが生まれることが一番の願いかもしれません。

ヴィタリー:とにかくこの『楽園』は、明日どうなるかもわからない中で、この世から私たちがなくなっても残したいものとして一生懸命作りました。是非聞いてください。

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インタビュアーコメント

前回の奈月さんへのインタビューは21年初頭。その頃から動き始めていた『楽園』が、ついにリリースになります。人とのつながりを大切にし続けてきた奈月さん、そしてヴィタリーさんが、国を越えて人を繋げる機会の創出を願ってつけた「Deai」というユニット名のもと、早くもこの『楽園』で多数のアーティストが集うことになりました。彼らの想いと表現を引き出した、今の世界にこそ必要な普遍的メッセージに、是非耳を澄ませてみてください。

(Interview&Text:Shiho Nagashima



撮影:加賀見
※注)画像の無断使用は禁止されております。

Deai : Tint Room

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